雑記、23
昨日の事である。
「仕事には慣れた?」
そう聞いてきたのは、同じ部署に所属している先輩のおっさんだった。
「全然ですね、難しいです」
なんせ新人教育を受けてから初日の労働である。一発で慣れるワケねーだろ、と思いつつも、社交辞令の一環なのだろうと思い話をする。聞くところによると、勤続20年超えらしい。
「何処から来たの?」
「徳島です」
大抵の場合において、徳島から来た、と言うとそれはそれは微妙な顔をされる。体感では遠いね、くらいしか言うことがない人が7割と、そもそも徳島の場所が分からない人が3割と言った感じだ。おっさんは前者のようだった。
「○○さんはどこの方なんですか?」
どうも話の感じ的に、彼も茨城の人間ではないらしかったので聞いてみる。
「僕?僕はね、ポルトガル」
その返しに思わず驚嘆の声を上げた。外国人、それもアジア系ですらないのだと言う。思わず顔をジロジロと眺めてみるが、やはりそうは見えない。マスクを外せば案外違うのかもしれないが。
「全然気付きませんでした、もうこっちには来て長いんですか?」
外国人に日本語上手いですね、は禁句だと何処かで聞いたので、なるべくそう言った話を使わないように話をする。
「そうだね、30年くらいかな」
長いなんてものではなかった。チャイムがそこで鳴ったので、話は終わって仕事に戻った。休憩時間を2分オーバーした。
そもそもの話として、私は外国人が嫌いである。
言語が通じないタイプの人間を疎ましく感じるのは良くあることかもしれないが、私はそうでない人間も疎ましく感じる。言ってしまえば自分は差別主義者であるし、生まれた国で死ぬべきだと思っている。
しかし、初見で日本人だと思っていた外国人に、私はネガティブな感情を抱けなかった。私の外国人嫌いは偏見と歪んだレッテル貼りに塗れたものであって、第一印象でそれが起こらなかった彼に対しては、その感情を持たなかった。
50年の内30年を日本で過ごしている外国人は最早日本人と言って差し支えないのではないか、と思う。そもそも21年を日本で過ごしている自分が日本人なのだから、その1.5倍を生きる彼もまた日本の人間だと認めていいのではないか、と私は結論づけた。
マトモに外国人と接したことがない、というのもまた事実である。徳島の労働者では外国人は希少だったし、そもそもちゃんとした会社に入って働くのは今年が初めてである。色眼鏡を外して普通に接すれば、私も外国人を受け入れられるのかもしれないな、と思った。
「お疲れ様」「お疲れ様です」
業務が終わってタイムカードを切っているところにまた彼はやってきた。
「仕事には慣れた?」
その質問は2時間前に聞いた。ぼちぼちですね、と雑に返した私に、彼は笑いながら見たことのない包み紙のチョコレートを一粒くれた。
形容し難い強烈な甘味に頭を殴られた。
「美味しいです」
次の壁を乗り越えるのは大変だな、そう思う。